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水戸地方裁判所 昭和31年(ヨ)68号 判決

申請人 伊藤政一郎 外一名

被申請人 茨城交通株式会社

補助参加人 茨城交通労働組合

主文

申請人らの申請をいずれも却下する。

申請費用は、申請人らと被申請人の間に生じた分並びに申請人らと補助参加人の間に生じた分のいずれについても申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者の申立

申請人ら代理人は「被申請人会社が申請人らに対して昭和三十一年四月二十一日附を以てなした解雇の意思表示の効力は本案判決確定に至るまで停止する。」との仮処分を求め、被申請人代理人は主文同旨の裁判を求めた。

第二、当事者の主張

一、申請人らの申請理由

(一)  申請人伊東政一郎は昭和二十五年六月二日、同鈴木誠は昭和二十六年五月二十日いずれも被申請人会社に雇われ、前者は予備助役(書記補)後者は駅務係(雇)としていずれも被申請人会社経営の水浜線(電車)磯浜駅に勤務していたが、申請人らは昭和三十一年四月二十一日附で被申請人会社からいずれも労働協約第十九条六の3の条項により解雇する旨の意思表示の送達を受けた。

(二)  而して右労働協約は申請人らの所属していた被申請人会社の従業員を以て組織する茨城交通労働組合(以下参加人組合と称する)と被申請人会社との間に昭和三十年三月十六日締結されたもので、その第十九条六の3には「会社は組合から除名された者は解雇する。但し会社が解雇を不適当と認めたときは保留して組合と協議する」といういわゆるユニオン・ショップ条項が規定されているのであるが、参加人組合は昭和三十一年二月二十七日に開催された臨時組合大会において申請人らが組合規約等に違反したとの理由で同規約第五十条第一、四号・第五十一条により申請人らを除名処分に付した。そこで被申請人会社は右協約条項に従つて申請人らを解雇したものである。

(三)  しかしながらユニオン・ショップ条項は締約当事者たる組合と会社との間には効力があるが組合外の第三者と会社との間には効力がない。すなわち申請人らは参加人組合から除名されて組合外の第三者になつたのであるから、その第三者たる申請人らと被申請人会社との間にあつては右条項は何等その効力がないものである。従つて被申請人会社が右条項に基いて申請人らに対してなした前記解雇は無効である。

(四)  仮に右条項が第三者たる申請人らと被申請人会社との間に効力があるとしても、申請人らに対する参加人組合の前記除名処分は次に述べるように全く失当であつて無効であるから、その有効であることを前提としてなした被申請人会社の前記解雇も亦無効である。すなわち前記除名処分の理由とするところは左記のとおりであるが(申請人らは除名処分に付される際、参加人組合から口頭又は書面を以て除名理由を告知されなかつたが参加人組合の審査委員会報告書にその理由なるものが記載されてあるのでこれによる。以下主張中「」をもつて記載してある箇所は右審査委員会報告書の記載文書より引用したものである)、申請人らは何等参加人組合の組合規約等に違反していない。

(イ) 申請人伊東政一郎について

(1) 申請人伊東の「昭和二十五年十二月二十五日の大塚屋会合から昭和二十六年の田尻氏宅会合、昭和三十年の皆川氏別荘及び荻谷氏宅会合……が分派的行動で」あり、すすんでこの「分派的行動が会社と相通じて行われたというけれども、このような会合そのものはあつたとしてもそれが同申請人と被申請人会社との通謀によつて行われたということは全く虚構である。又これらの会合の目的の一つとして、「特定組合員を糾合して資金を集め、特定組合員を対象とした互助組織(助け合い)を持とうとしたことは」「組合の行う福利厚生事業に対抗する」行為であつて「組合共済部を行動的に批判し、延いては組合共済部を無力ならしめようとするもので……組合の発展を阻止する行為であり組合統制に反するものである」というけれども、申請人伊東はたまたまその旅行会若くは助け合いの会の相談会合の席に立寄つただけでその会の設立の提唱もせず加入もしていない。なおそのような会が組合に対抗して設立を計画されたものでもなく、かえつて組合に対抗した組織に見られる虞れがあるという議論もあつて、そのまま立消えとなつたものである。

(2) 「西村氏が電車支部委員会で、私たちの集りをスパイするため云々と発言したことを聞いたので、私たちはスパイされるような悪いことはしていないのに何故そのような発言をしたか、その理由を聞きたいと西村氏を呼んで追及した」という申請人伊東の行動を「正しく運営された電車支部委員会での……発言……を個人的に責任追及し、しかも謝罪させるなど全く会議の民主的運営に一片の誠意を示さぬばかりか、むしろ強圧手段によつて会議の民主的運営を破壊する如き行為」であり、さらに申請人伊東がかつて浜田転勤について組合の反対があつて実現しなかつたが、さらにその転勤運動をしていた際「安藤氏に対して……依頼し善処して貰うのに、もし自分の依頼が実現せぬ場合には考えがある」という言葉を発し「一度ならず二度までも支部委員の発言に直接干渉した行為は……正常な組合発展を阻害する行為であるというけれども、その前段の理由は西村がスパイしたと自ら言明したとするならばスパイされた立場の者がこれを難詰することは当然のことであり、また仮に申請人伊東が前記のとおり「考えがある」云々の言葉を発したとしてもそれは安藤に対して「考えがある」という意味でなく組合の態度に対して「考えがある」という意味であるからこの除名理由は全くの的はずれである。

(3) 又同申請人の「西村支部委員の発言追及行為」は「会議員の発言または表決については会議外でその責任は問われない旨」の組合議事規則(第三十八条)上の「保障をじゆうりんした違反行為」であるというけれども、このような議事規則がかりに何等かの実効あるものとするならば会議上の発言についてはいかなる発言をしても組合から懲戒処分を受けないということであつて、これに対して組合員が何の批判、非難、責任追及もできないという効力まではないものであることは多言を要しない。

(ロ) 申請人鈴木誠について

申請人鈴木に対する除名理由は同人が申請人伊東の除名に公然反対の意思を表示し反対運動をしたということであるが、このようなことが除名理由として許される筈がない。

元来ユニオン・ショップ条項は結社の自由という基本的一般的権利を犠牲にしても労働者の団結権を擁護しなければならないという要請に出たものであるから、組合員の除名については特に慎重を期し真に反組合的反労働者行動に出で、しかもその程度が極めて重大なものでなければこれを許すべきではない。然るに本件申請人らに対する参加人組合の除名理由は前述のとおりであつて、申請人伊東に関する事実は殆んどつくりごとであり、かりにその事実を真実と見たとしても、殆んどすべてが組合員がその立場において特定の幹部のみに対してなす批判であり、且つその範囲を一歩も出るものではない。かりに多少その点において穏当を欠くものがあつたとしても到底それが会社の解雇につながる除名処分に値するものであるなどとは言えるものではない。又申請人鈴木の行動において若干の行過ぎがないとは言えないであろうけれども、それとても不当処分に対する憤激の余りに出たということと、除名された以上、これを争う方法があることを知らずこれを絶対的なものと思い誤つた結果の行動であるから、その情状において諒とすべきものなしとしない。然るに即時極刑たる除名処分に付し、しかもその手続たるや大会開催中に中央委員会を別途に開きその除名を決定し、これを本人に通知もせず、そのまま大会に付議決定したことは組合規約第五十三条所定の手続すなわち大会において本人の不服理由を開陳する機会と余裕とを奪うものであつて、この点においても申請人鈴木に対する除名処分は無効である。

(五)  よつて申請人らは被申請人会社に対して本件解雇の無効確認請求訴訟を提起しようとするものであるが、申請人らは他に生活の資を得る財産がないので、本案判決の確定を見るまでの間生活することができないから権利関係につき損害を避けるため本申請に及んだ。

二、被申請人の答弁

(一)  申請人ら主張の事実のうち(一)及び(二)の各事実は認めるが、申請人らが除名処分の理由として主張する具体的事実は知らない。その他の事実は争う。

(二)  参加人組合は昭和三十一年二月二十八日茨交労発第二五号の文書を以て被申請人会社に対し、同組合は昭和三十一年二月二十七日開催された第二十一回臨時組合大会において申請人ら両名を除名する決議が成立し同組合の規約に基き除名処分に付した旨通告し、更に同年三月一日及び其の後数次に亘つて行われた同組合と被申請人会社との団体交渉において之等被除名者に対しては被申請人会社は労働協約第十九条六の3の条項に基き速かに解雇すべき旨を強硬に要請した。そして其の間同組合は被申請人会社にストを通告し同年三月二十日二十四時間完全ストを実行し、なお被申請人会社が申請人らの解雇を速かにしないときは更に同月二十二日も二十四時間ストを行い爾後随時これを行う旨通告して来た。一方これより先申請人らは参加人組合から除名された後である同年二月二十九日被申請人会社に対し、同組合が総評傘下の私鉄労働組合総連合に属するに対して日本労働組合総同盟を上部団体とする「茨城交通従業員組合」が結成された旨の届出があつた。すなわち申請人ら両名がいずれも執行委員となり釜形末雄をその委員長、荻谷芳夫を書記長とするいわゆる第二組合であつて、しかも将来第一組合たる参加人組合を大量脱退して之に加入する者多く結局第一組合はその成立の基礎を失いユニオン・ショップ条項も之が締約の基盤を失うものということであつた。被申請人会社としてはこれに対して組合事務所として会社所有建物の一部の使用を許したのであるが、其の後その組合員数は当初被申請人会社に説明したところと異り僅かに七名(その後二名脱退して参加人組合に復帰)に過ぎずこれを組合の分裂とは同視し難かつたことと同年三月二十一日に前述のスト中止を条件とする茨城県地方労働委員会の斡旋もあつて、結局被申請人会社は同年四月二十一日協約に従つて申請人らを解雇した次第である。

(三)  事実右の如くであるから申請人らの本申請は理由がない。なお被申請人会社が申請人らに対し本件解雇の意思表示をする当時申請人らから参加人組合に対し脱退届が提出されていたことは事実上知つていたものである。

三、補助参加人の主張

ユニオン・ショップ条項の取りきめのある労働協約の下において労働組合が組合員を除名することは即ち解雇を結果づけるものであるから特に慎重を期さねばならないことは申請人ら所論のとおりである。除名は確かに厳罰であるが組合の団結を阻害し、ひいては組合の存在を危くする行動をとる組合員はこれを組合外に追放することはやむを得ないところである。本件申請人らに対する参加人組合の除名理由は申請人らが「」をもつて記載主張しているところと同一であるが、申請人伊東の大塚屋の会合以下の諸会合は参加人組合の分裂工作の陰謀であり、組合の団結を危くするものであつたことは明白であり、又その程度が除名に値するものであつたことは組合大会において絶対多数の賛成を得ている点より見ても肯かれる。而して申請人鈴木は申請人伊東らと反組合運動に参加し反組合運動を展開していたものであるが、昭和三十一年二月七日開催された参加人組合の中央委員会において申請人伊東を除名と決定後第二組合結成のため組合幹部の悪口誹謗をなし密かに組合員の脱退等を勧誘したのであつて、この事実は同申請人が参加人組合を分裂させようとしたものであること洵に明白でありその除名は当然である。又除名の手続においても中央委員会の議を経て組合大会において決定したものであるから何等違法はない。当時同申請人は除名を覚悟で行動していたのであるし又後記のように参加人組合を脱退しているのであるから再審査提出の権利は自ら放棄したものである。

右の如く参加人組合が申請人らを除名したことについては何等手続上の違法はなく、又制裁方法のうち除名処分を選定した点においても行過ぎはない。組合がその団結維持上泣いて馬稷を切つたものである。然るに申請人らは右除名を無視し外七名の者と共に昭和三十一年二月二十九日参加人組合執行委員長宛書面で脱退届を提出し自らの自由意思に基いて参加人組合を脱退し「茨城交通従業員組合」を結成したのであるから、仮に除名が無効であつてもユニオン・ショップ制の下においては右脱退の事実が存ずる以上申請人らは本件解雇の無効を主張することはできない。右の理由によつて申請人らの本申請は理由がない。

なお参加人組合が昭和三十一年二月二十七日開催の臨時組合大会において申請人らを除名する決議が成立した当時の組合員数は約七百名で脱退者は疏丙第九号証のとおり申請人ら九名であつたが其の後同年四月二十一日被申請人会社から申請人らに本件解雇の意思表示がなされた当時は菅谷卯之松、篠原作太郎の二名が参加人組合に復帰していたので七名に過ぎなかつた。

四、被申請人及び補助参加人の右各主張に対する申請人らの陳述

申請人らが外七名と共に補助参加人主張の日に脱退届を出したこと、本件除名決議当時の組合員数が約七百名で本件解雇の意思表示のあつた当時脱退者のうち二名が参加人組合に復帰していたことはいずれも認めるが其の他の主張事実については申請人らの主張に反する部分は全部不知又は否認する。申請人らの脱退は除名が有効であることを前提としてなされたものであるから除名処分そのものが無効である以上脱退も亦無効である。

第三、疏明方法〈省略〉

理由

申請人伊東政一郎が昭和二十五年六月二日、同鈴木誠が昭和二十六年五月二十日いずれも被申請人会社に雇われ、前者は予備助役(書記補)、後者は駅務係(雇)としていずれも被申請人会社経営の水浜線(電車)磯浜駅に勤務していたが申請人らは昭和三十一年四月二十一日附で被申請人会社からいずれも労働協約第十九条六の3の条項により解雇する旨の意思表示の送達を受けたこと、そして右労働協約は申請人らの所属していた被申請人会社の従業員を以て組織する参加人組合と被申請人会社との間に昭和三十年三月十六日締結されたもので、その第十九条六の3には「会社は組合から除名された者は解雇する。但し会社が解雇を不適当と認めたときは保留して組合と協議する」といういわゆるユニオン・ショップ条項が規定されていること、参加人組合は昭和三十一年二月二十七日に開催された臨時組合大会において申請人らが組合規約等に違反したとの理由で同規約第五十条第一、四号・第五十一条により申請人らを除名処分に附したので、被申請人会社は右協約条項に従い申請人らを解雇したものであることはいずれも当事者間に争がない。なお成立に争のない乙第一号証(同号証は参加人組合において作成し各組合員に渡しているものであるが、其の記載内容である組合規約、議事規則、労働協約等はいずれも其の記載と相違ないこと当事者間に争がない。)中労働協約に関する覚書第二項において「労働協約第十九条第六解雇第3の但書の協議する期間は組合が除名を決議し会社に通知した日より六十日間とし、協議が整わない場合は解雇する。」旨定めていることが認められる。

而して右乙第一号証・成立に争のない丙第四、第五号証・同第六号証の一ないし三・同第九号証・証人渡辺大勝・同太田憲三・同神永子之助・同石川富夫の各証言及びこれらによつていずれも其の成立を認め得る丙第一号証の一ないし七・同第二、第三号証証人堀川克治の証言、申請人伊東政一郎・同鈴木誠各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、本件解雇に至るまでの経緯は大略次のとおりであつたことが一応認められる。すなわち

(一)  参加人組合は被申請人会社の従業員を以て組織する唯一の労働組合であつて、電車、自動車、鉄道及び本社に各支部があり申請人らはそのうち電車支部に所属していたのであるが、たまたま昭和三十年十二月二十七日に開催された参加人組合の第十二回中央委員会において電車支部委員から申請人伊藤の転勤につき同支部委員会として反対する旨の表明があつた。これはその頃会社の行う臨時移動において申請人伊藤は磯浜駅予備助役から浜田の輸送係(実質上の管理職で百数十名の従業員を監督する)に転勤の内命を受けていたのであるが、当時の慣行として電車支部内の移動については同支部委員会が会社と協議して決めることになつていたところ、其の頃同申請人が電車支部委員会に臨む安藤、古田土両支部委員に対し「今度の移動に反対すれば考えがある」と述べたことから、このように支部委員の言動を抑圧するような者の輸送係転勤には反対であるというのが其の理由であつた。そして同申請人については同人が昭和二十五年六月被申請人会社に雇われ組合員となつてからその行動にとかく分派的なところがありこれがため職場の明朗さを欠くというような噂が流布されていたので、参加人組合において右事実を調査することになり、同年十二月二十九日開催の執行委員会において同執行委員長渡辺大勝、同執行委員太田憲三、同桜井金造の三名に右事実の調査を委嘱した。よつて右調査委員は同日から昭和三十一年一月十日に亘つて申請人伊藤と安藤、古田土の対談内容並に同申請人の昭和二十五年からの言動について調査した結果、昭和二十五年十二月二十五日水戸市内大塚屋で申請人伊藤外組合員数名及び被申請人会社の竹内社長外重役一名が会合した事実、昭和二十六年旧正月組合員田尻三次方で申請人伊藤外組合員数名が会合した事実、昭和三十年八月大洗町の皆川某の別荘で申請人伊東外組合員数名が会合した事実及び同年十月組合員荻谷芳夫方で同様会合した事実があるが、これらの会合の目的内容については各出席者の証言に不一致の点がある旨などを同年一月十三日執行委員会に書面(丙第二号証)を以て報告すると共に太田憲三から同申請人には組合規約違反の疑ありとして制裁請求がなされたので同年一月十七日開催の第十三回中央委員会は組合規約第五十一条により各支部から神永子之介外七名を選出し審査委員に任命した。そこで同審査委員会は右調査報告書に基き更に事実等につき審査及び協議を行つた結果、前記各会合はいずれも申請人伊藤を中心とする特定組合員だけの会合であり、しかも非公開でなされたことは分派的行動であつて組合規約第四条(組合の目的)に違反する、更にその内容についても特定組合員を糾合して資金を集めこれを対象として互助機関(助け合い)を持とうとしたことは組合の行う福利厚生事業に対抗する行為であつて、組合共済部を行動的に批判し延いては組合共済部を無力ならしめようとするもので、組合の発展を阻害し組合の統制に反するものであるから、同規約第五条第三、第四号に違反する旨などを中央委員会に報告したので同年二月七日開催の第十四回中央委員会において審議の結果全員一致を以て申請人伊藤を除名することに決定し同日其の旨を同申請人に通告した。同申請人は右決定を不服として規約第五十三条により同年二月十七日再審議の請求をしたので、参加人組合は同月二十七日臨時組合大会を開催し同申請人の趣旨弁明を聞き討議の上除名賛成一一七・反対七・白紙五で除名と決議されたこと。

(二)  一方申請人鈴木はかねがね参加人組合幹部の組合運営方針等に不満を持つていたのであるが、申請人伊藤が前記の如く二月七日開催の中央委員会において除名と決定後、右決定を不当として同月二十四、五日頃から「茨城交通労働組合民主化連盟」という名の下に組合幹部を誹謗し組合の分裂を企図するような檄文を組合員或はその家族に配布して第二組合結成の動きを見せ始めたので、太田憲三から同年二月二十六日制裁請求がなされ、翌二十七日開催の第十六回中央委員会は飛田司郎外六名を審査委員に任命し右審査委員会は同日直ちに申請人鈴木を磯浜駅から呼び寄せ審査したところ、同申請人が前記の檄文を作成配布したことを認め、しかも之が中止撤回の意思のないことが確かめられたので同申請人には反組合運動の非違ありとの報告を中央委員会になし同委員会は全員一致を以て同申請人を除名することに決定し、同申請人の右反組合運動は組織防衛の緊急事態であるとして直ちに同日開催の臨時組合大会に上程し、審議の結果除名賛成一二二・反対四・白紙三で除名と決議されたこと。

(三)  そこで参加人組合は被申請人会社に対し同月二十八日書面を以て申請人らの除名通告並に前記協約第十九条六の3の条項に基く解雇を要求し其の後被申請人会社との間に行われた数次の団体交渉においても右解雇を速かになすよう要請した結果、途中参加人組合の二十四時間スト及び之が続行の予告並に茨城県地方労働委員会の斡旋もあつて、同年四月二十一日被申請人会社は右協約条項に従い申請人らを解雇する至つたものであること。

(四)  なお其の間申請人らは外七名の組合員と共に同年二月二十九日参加人組合執行委員長宛書面で脱退届を提出(この事実は申請人らにおいて認めるところである。)して脱退した上右九名で「茨城交通従業員組合」なる第二組合を結成し、その旨を被申請人会社に届出でると共に第一組合たる参加人組合員に対してその脱退と右第二組合への加入を勧誘して之が組織の拡大強化に努めたこと、そして申請人らの右第二組合結成の目的は当時特に参加人組合内部に対立抗争があつたわけではなく、主として同組合を分裂せしめることによつて前記ユニオン・ショップ条項を含む労働協約の失効を企図したものであること。

以上の事実が認められ、右認定を動かすに足る疎明資料はない。

ところで申請人らは先ずユニオン・ショップ条項は締約当事者たる組合と会社との間には効力があるが、組合外の第三者と会社との間には効力がない。すなわち申請人らは参加人組合から除名されて組合外の第三者になつたのであるから、その第三者たる申請人らと被申請人会社との間にあつては右条項は何等その効力がない。従つて被申請人会社が右条項に基いて申請人らに対してなした本件解雇は無効であると主張する。しかしながら申請人らは前示のとおり参加人組合と被申請人会社とがユニオン・ショップ条項を含む労働協約を締結した昭和三十年三月十六日当時参加人組合所属の組合員であつたのであるから、このような組合員が組合から除名され又は自ら組合を脱退して組合員たる身分を失つた場合には後記のとおり特別の事情のない限りユニオン・ショップ協定の効力は当然その者に及ぶと解すべきであるから、申請人らの右主張は理由がない。

次に申請人らは仮に右協定の効力が申請人らに及ぶとしても申請人らに対する参加人組合の除名処分は無効であるからその有効であることを前提としてなした被申請人会社の本件解雇も亦無効であると主張する。而して之に対し補助参加人は仮に除名が無効であるとしても申請人らは外七名の者と共に昭和三十一年二月二十九日自らの意思に基いて参加人組合を脱退したのであるからユニオン・ショップ制の下においては右脱退の事実が存する以上申請人らは本件解雇の無効を主張することができない旨主張する。よつて以下この点について考えて見る。

申請人らが外七名の組合員と共に昭和三十一年二月二十九日参加人組合執行委員長宛書面を以て脱退届を提出し自らの意思に基いて同組合を脱退したことは前認定のとおりである。而して前記協約第十九条六の3には「会社は組合から除名された者を解雇する云々」と規定されてあること前示のとおり当事者間に争がなく、前顕乙第一号証中の労働協約によればその第四条には「会社の従業員は第八条に定める者を除き組合員でなければならないと規定され、そして第八条には「従業員中非組合員を左の通りとする。一、各部の課長、次長および営業所長、次長 二、(イ)総務部総務課庶務係長(秘書係担当)人事係長および係員、勤労課勤労係長および係員(ロ)経理部経理課財務係長会計係長 三、臨時に雇入れた者および試傭中の者 四、その他会社および組合双方の認めた者」と規定されてあることが認められるのであつて、これらの規定から見れば前記協約第十九条六の3に「会社は組合から除名された者を解雇する」旨規定されてあつてもその趣旨は参加人組合の組合員である従業員が除名されて組合員たる身分を失つた場合は勿論自らの意思に基いて組合から脱退し組合員でなくなつた者は前記第八条に該当する場合すなわち従前組合員であつた者が第八条所定の非組合員たる地位に就任するため組合から脱退したというような特別の場合を除き、会社においてその者を解雇しなければならない義務を負う旨を協定したものと解するを相当とする。そして申請人らが右第八条所定の非組合員のいずれにも該当しないことは弁論の全趣旨に徴し明らかである。(尤も申請人らは前示のとおり外七名の組合員と共に第二組合結成の目的で参加人組合を脱退し「茨城交通従業員組合」なる第二組合を結成したのであるが、このような場合労働協約上のユニオン・ショップ条項がこれら脱退者に及ぶかどうかについては場合により問題があるけれども少くとも本件のように当時特に参加人組合内に対立抗争があつたわけでもなく、ただユニオン・ショップ条項を含む労働協約の失効を企図して第二組合を結成したもので、しかもその組合員数は従前の組合のそれが約七百名であるのに対し僅かに九名に過ぎず(この事実は当事者間に争がない)到底これを組合の集団的分裂と称すべき事態に至つたものとも見られない場合には、これを積極に解するのが相当である。)

そうすれば申請人らの主張する如く仮に除名が無効であつたとしても、申請人らは自らの意思に基いて参加人組合を脱退しその組合員でなくなつた以上被申請人会社は参加人組合の要求に基き右条項に従い申請人らを解雇したのは結局有効であるといわなければならない。

申請人らは申請人らの脱退は除名が有効であることを前提としてなしたものであるから、除名が無効である以上右脱退も亦無効であると主張するが除名が有効であればその時既に組合員たる身分を失い脱退そのものが無意味であるから申請人らの右主張はその主張自体理由がない。

以上の次第で被申請人会社が参加人組合との間の労働協約上のショップ条項により申請人らを解雇したのは結局正当でありその解雇について格別無効とすべき理由を認めることができないから、申請人らにおいてその解雇が無効であることを前提としてなした本件仮処分申請は結局その被保全権利の疏明が充分でないことに帰し、しかも保証を以てこれを補うことは相当でないと考えるのでその余の点につき判断するまでもなくいずれもこれを理由なきものとして却下することとし、申請費用につき民事訴訟法第八十九条・第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 多田貞治 広瀬友信 楠賢二)

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